身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
ちらりと足元にいる冬真を見た。こちらの会話には気付いていないのか、私のバッグについているキーホルダーをいじって静かに遊んでいる。
「すみませんでした」
私は先生に深く頭を下げた。そんな私の肩に先生が優しく手を置いてくれた。
「でも、そのあとしっかりふたりとも仲直りできたから安心して。瑠衣君のお母さんも少し前にお迎えに来たから事情だけは伝えておきました」
「はい。本当にすみません」
冬真がお友達に手を上げられてしまったことは悲しいけれど、でもお友達の描いた絵をクレヨンでぐちゃぐちゃに塗りつぶしてしまった冬真に非がある。この場合、どちらか一方が悪いとは私は思えなかった。
だけど、冬真が瑠衣君の絵をぐちゃぐちゃにしてしまった理由には胸が痛む。自分だけがパパの絵を描けなくて、そのことをお友達にからかわれて、冬真はどう思ったのだろう……。
すると、先生が私の足元にいる冬真に元気に声を掛けた。
「冬真君。おうちに帰ったらママに絵を見せてあげるんだよ」
「うん」
それから先生に挨拶をして、私と冬真は保育園を後にした。