身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「おじちゃん、抱っこして」
冬真はくるんと私に背を向けると、柊一さんに向かって両手を伸ばす。
まさか自分が冬真に抱っこを求められるとは思っていなかったのだろう。柊一さんはきょとんとした表情を浮かべて固まってしまった。
けれど、すぐに顔をほころばせると、冬真を軽々と持ち上げる。その浮遊感がおもしろかったのか、冬真が楽しそうに声を上げて笑い、そんなふたりの姿に私も自然と笑顔がこぼれた。
「もうすっかり懐いちゃいましたね」
「これで来週のドレスショーも俺が冬真を預かれるな」
まさかそのために私と冬真をお出掛けに誘ったのだろうか。私が冬真を安心して柊一さんに任せられるように、冬真との親睦を深めようとして……。
ドレスショーのことはとても迷ったけれど、せっかくなので行こうと決めた。
そして、それを最後に私は子供の頃からの夢をきっぱりと諦めるつもりでいる。
今回のドレスショーはそのいいきっかけなのかもしれない。最後に、大好きなドレスをたっぷりと堪能できたら、夢への未練も断ち切ることができるはず。
「おじちゃん!」
そんなことを考えていると、柊一さんに抱っこされている冬真が突然声を上げた。それに驚いた私と柊一さんの視線が冬真へと向かう。