身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

「僕、保育園でおじちゃんの絵を描くね」
「俺?」

 唐突な冬真の言葉に、柊一さんが不思議そうに首をかしげた。一方の冬真は嬉しそうに言葉を続ける。

「今度はみんなと一緒に僕もパパの絵描けるよ」
「えっ」
「おじちゃん、僕のパパだもん」

 柊一さんの表情が固まる。私も、彼と同じような反応をしてしまった。すると、柊一さんがゆっくりと冬真に向かって問いかける。

「俺がパパって……冬真君はどうしてそう思ったんだ?」
「だって、ゾウの写真のとき言ってた。カメラ持ってる人」

 そう言われて思い出す。

 たしかに、ゾウのオブジェの前で三人で写真を撮ったとき、カメラを持ったスタッフが柊一さんのことを〝お父さん〟と呼んでいた。

 それに対して冬真は不思議そうに首をかしげていたけれど、あのときは特に何も言わなかったのに。そのときのことをずっと覚えていたらしい。そして、柊一さんのことを自分の〝お父さん〟だと思ったようだ。

「おじちゃん、パパでしょ?」

 冬真の質問に、私も柊一さんもすぐに言葉を返すことができない。

 間違ってはいない。たしかに柊一さんは冬真の父親だ。でも、まだそれを伝えるには早い気がして、いったい冬真にどう説明すればいいのか迷ってしまう。

 すると、柊一さんがふっと静かに笑った。

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