身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

「冬真君は、俺がパパならうれしい?」

 そう問い掛ける彼の瞳は、どこか不安そうに冬真を見つめていた。

 けれど、すぐに冬真の元気いっぱいな声が私たちの耳に届く。

「うれしい。僕、おじちゃん好き」

 その答えを聞いた柊一さんの目が驚いたように見開かれる。

「パパって呼んでいい?」

 冬真が柊一さんに向かって尋ねると、柊一さんの視線が私に向けられる。言葉はないけれど柊一さんの表情が『いいか?』と私に確認しているような気がした。

 たぶん彼は、自分が父親だと冬真に伝えたいはずだ。それは今日一日過ごして、冬真から〝おじちゃん〟と呼ばれるたびにどこか悲しそうに笑う柊一さんを見て感じていた。

 血の繋がった息子なのに、他人のように呼ばれるのはやっぱり切ないと思う。

 それに、冬真も自分だけ父親がいないことを気にしている。さっき柊一さんの絵を保育園で描くと言ったときの冬真の顔はとても輝いて見えた。きっと自分にもみんなと同じようにパパができて嬉しかったのだろう。

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