身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

 保育園でのこともあったばかりだし、きっと自分にもパパがいるとわかって冬真は安心したはずだ。

「今日の動物園もずっと楽しそうにしていたし、柊一さんと一緒に行けてうれしかったです」

 ありがとうございます。と、あらためて柊一さんにぺこりと頭を下げて感謝を伝えると、「美桜は?」と彼に問い掛けられた。

「今日、楽しめた?」
「はい」

 大きく頷いて見せると、「それならよかった」と柊一さんがふっと笑みをこぼす。

「冬真のことももちろん楽しませたかったけど、俺は美桜にも楽しんでほしかったから」
「私ですか?」
「この前、泣いていただろ。だから、元気出してほしくてさ」
「この前……」

 もしかして、保育園で冬真がお友達の描いた絵をクレヨンでぐちゃぐちゃに塗り潰してしまった日のことだろうか。

「あのときの俺は、美桜になにも言ってあげられなかったから。泣いているお前をただ抱き締めることしかできない自分がもどかしかった。本当はなにか気の利いたことでも言って励ましてあげたかったけど、なにを言えばいいのかわからなくて」
「柊一さん……」
「俺は最近まで冬真の存在を知らなかったし、ふたりには一切関わってこなかった。そんな俺が〝美桜はよく頑張ってるよ〟なんて安易な言葉をかけちゃいけない気がしてさ」

 あの日、柊一さんは胸の内でそんなことを思っていたんだ。

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