身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「やっぱり美桜だ。本当に来てる!」
振り向くと、そこに懐かしい同期の姿を見つける。
「若葉?」
堀口若葉――私と同じ年に衣装事業部に異動になった同期だ。この会場にいるということは、彼女は今も衣装事業部に所属してドレスに関わる仕事をしているのだろう。
偶然の同期との再会に嬉しい気持ちと同時に、胸がちくりと痛んだ。
「美桜ったら今までどうしてたのよ。内緒で会社を辞めるなんてひどい。急に連絡も取れなくなるから、ずっと心配してたんだからね」
若葉が私の両手をぎゅっと握る。その瞳にはうっすらと涙が滲んでいて、私を心配してくれていた彼女の気持ちが痛いほどに伝わってきた。
セリザワブライダルを辞めるとき、仲良くしていた同期の若葉にも私は別れを告げなかったし、そのあとの連絡先も教えなかった。彼女を通して柊一さんに私の居場所を知られてしまう気がして言えなかったのだ。
「今朝、ドレスショーに美桜が来るって社長にこっそり教えてもらったんだけど、本当にいるからびっくりした」
「社長って、柊一さん?」
「もちろん」