身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
不安に思いながらまわりを見渡すと、私以外のプロのモデルさんたちもそれぞれのドレスに着替え終わっているようだ。
様々なデザインのドレスを一着一着じっくりと見つめていると、自然と気分が高揚してくる。どのドレスも細部までこだわりがあり、華やかでとても美しい。
周囲にはかつて一年間だけ一緒に働いた衣装事業部の同僚たちや、おそらく私が辞めた後に異動してきたであろう新人社員の姿があり、てきぱきとそれぞれの仕事をこなしている。
……私もまたここに戻りたいなぁ。
自然とそんな感情が沸き起こってしまい、それを消し去るために頭を勢いよく横に振った。
その後、若葉からショーの流れや歩き方の説明を受けたものの、だんだんと緊張が増してきてなかなか頭に入らなかった。
ドレスショーの開始まで十五分を切った頃、とうとう会場への移動が始まる。
私の心臓は、飛び出しちゃうんじゃないかってくらいバクバクと音をたてていて、おそらく人生でここまでの緊張感を味わうのは初めてかもしれない。
これから会場内にいる一五〇名ほどの人たちの視線を受けながら、ランウェイに見立てたバージンロードを歩かないといけないと想像するだけで吐きそうだ。