身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

 深呼吸を繰り返しても緊張感は抜けてくれなくて、私はこのまま無事にランウェイを歩けるのだろうか。

 私が着ていることでこの素敵なドレスの魅力が半減してしまったらどうしよう。途中で転んでしまったらどうしよう。

 そんな最悪なシナリオばかりが頭に浮かび、緊張感もあるせいかなんだか泣きたくなってしまった。

「へぇ。本当に美桜がドレスを着ているのか」

 すると、突然背後から聞き慣れた男性の声が聞こえた。

「美桜が一般モデルをすると聞いたから見に来てみれば、まるで生まれたての小鹿だな。だいぶ震えてるけど大丈夫か?」

 生まれたての小鹿……今の私のことをそう表現して笑っているのは柊一さんだ。彼の視線が私を上から下までさっと見回す。

「似合ってんだから、もっと自信持てよ」
「でも……」

 気が付くと、いよいよ次が私の番になってしまった。今、ランウェイを歩いているモデルさんが戻ってきたら、今度は私があの場所をひとりで歩かないといけない。

 果たして今の私にできるだろうか。生まれたての小鹿のようなのに……と、さきほどの柊一さんの言葉を思い出す。

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