身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
おそらくこれを演出だと思っているのだろう。この展開に驚いているのは私と、ショーを見守っているセリザワブライダルの社員だけ。
社長⁉と、戸惑う声がどこからか聞こえてくるけれど、柊一さんは気にすることなくランウェイを歩き続ける。
瞬間、思い出したのは北海道出張の夜のこと。
足を痛めて歩けなくなった私を、柊一さんは今のように横抱きにしてピンチから助けてくれた。そんな彼が頼もしくて、柊一さんの顔をそっと見上げながらドキドキしていたあの日の記憶が、まるで昨日のことのように蘇る。
あの夜、柊一さんに想いを告げられたのがきっかけで私たちの交際は始まった。四年間も離れてしまったけれど、私は今でもやっぱり柊一さんが好き……。そんな気持ちを改めて実感する。
祭壇の前に辿り着くと、柊一さんが私をそっと下ろしてくれた。
私を見つめる彼の瞳が『ここからは歩けるな?』と、私に優しく問い掛けている。それに応えるように私はうなずいた。
すると、柊一さんが左腕をくの字に曲げる。その姿はまるで結婚式のバージンロードで新郎が新婦をエスコートして歩くときのようで……。