身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
私はそっと彼の左腕に自分の右手を添えた。それを確認した柊一さんが、すっと前を向いて歩き出す。どうやらランウェイの戻りも私をエスコートして歩いてくれるらしい。
どうしてだろう。柊一さんが隣にいるだけで安心できる。あんなに張りつめていた緊張感がするすると抜けていく。
今は、私が着ているこのドレスのために歩こう。少しでもドレスが綺麗に見えて、お客さんの心をつかめるように。このドレスを着たいと思ってもらえるように。それだけを考えて、私はランウェイを最後まで歩き切った。
そして、次のモデルさんがまたランウェイを歩き始める。これで私の役目は終わった。最初から最後まで柊一さんのおかげではあるけれど、とりあえずランウェイを歩き切ることができてよかった。
ほっと胸を撫で下ろしていると、柊一さんが私の右手に自身の左手を絡めてきた。
「せっかくだから、それ着たままちょっと来て」
「え?」
私の手を握ったまま柊一さんがさっそうと歩き始める。
辿り着いたのは、緑に囲まれた庭園のような場所。普段はガーデンウエディングに使用されているが、今は挙式が行われていないらしい。人の気配がなく、しんと静まっていた。