身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

「さっき自分でも言っただろ。ドレスが大好きだって。それなら夢を諦める必要なんてないし、またセリザワブライダルに戻ればいい」
「それはできません」
「どうして?」

 そう尋ねられて思わず言葉に詰まる。自分の考えをもう一度しっかり頭の中でまとめてから、ゆっくりと口を開いた。

「私には冬真がいます。冬真を育てるためには夢を追いかけてはいけないんです。しっかり現実を見ないと」
「そうやって冬真のせいにするのか」
「そんなっ……私は別に冬真のせいになんて――」
「しているだろ。冬真がいるからお前は夢を諦めるんだ。違うか?」
「……っ」

 その言葉に、私はぐっと下唇を噛みしめる。

 冬真のせい……。

 そう言われたことがショックだった。でも、たぶん柊一さんの言葉は間違っていない。

「……そうですよ。私が夢を諦めるのは冬真のためです。だって私は冬真のお母さんだから。冬真を産んでひとりで育てるためには夢なんて見ていられなかった。冬真には私しかいないから、私がしっかりと働いてお金を稼がないと生きていけないから。柊一さんは知らないかもしれないけど、子供をひとりで育てるのはとっても大変なんです」

 最後は叫ぶように告げていた。瞳にうっすらと涙がたまっていく。

< 171 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop