身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
柊一さんはなにも知らない。私が、どんな気持ちで彼のもとを去ったのか、セリザワブライダルを辞めたのか、夢を諦めたのか。
冬真を妊娠しているとわかったときの私の気持ちも、産むと決めたときの覚悟も、産んでからの大変な日々も、なにも知らない。
瞳に涙が溢れてくる。それが頬を伝ってぽろぽろと落ちていく。せっかくのドレスが私の涙で濡れてしまう。でも、涙が止まらない。
そんな私の体を柊一さんがふわっと抱き寄せた。
「ごめん、美桜。今まで全部お前に背負わせて。悲しい思いさせて。確かに俺はなにも知らないよな」
そう言われた途端、胸がズキンと痛んだ。
私は、こんな風に柊一さんに謝ってほしいわけじゃない。だって彼はなにも悪くないから。
あの頃、柊一さんだって悩んでいたんだ。それでも、私と結婚できるように必死に考えてくれていた。
そんな彼のもとを黙って去ったのは私だ。あのとき、もしも柊一さんのもとを離れなかったら今頃、どうなっていたのだろう。
そんな未来を想像しようとしたけれどすぐにやめた。そんなことをしても今が変わるわけじゃない。私たちが離れていた四年間はもう戻ってこない。