身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

 こうして保育園の見送りに少し時間がかかってしまい、職場であるアマドゥールに到着したのは今日も出勤時間ギリギリ。

「――すみません。遅くなりました」

 厨房に慌てて駆け込んできた私を見て牧子さんがふっと笑顔を見せる。

「おはよう、美桜ちゃん。そんなに慌てなくても大丈夫よ」

 彼女はアマドゥールの人気商品であるシュークリームの生地をナイフで切っているところだった。

 今日も開店前だというのにお店の前にはすでに行列ができているので、ここにあるシュークリームたちもすぐに売り切れてしまうのだろう。

「だいぶお休みをいただいてしまって本当にすみません」

 木崎さん夫婦に頭を下げると、治さんが笑顔で答えてくれる。

「それは気にするなっていつも言ってるだろ。それよりも冬真君の具合はどうだ?」
「はい。もうすっかり元気です。ご心配おかけしました」
「そうか。元気ならよかった。それじゃあ、美桜ちゃんには今日はたっぷりと働いてもらうからな」
「もちろんです」

 私は気合を入れて返事をした。厨房でのお手伝いも、カウンターでの仕事も、配達も、なんでも頑張るつもりだ。

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