身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
面倒なのか知らないけれど、詳しい説明をされることなくマニュアルだけをポイっと渡されただけ。わからないところを質問に行っても、『マニュアルに書いてあるから~』と流されてしまう。もともとパソコンの作業に慣れていない私が、マニュアルを見たところで完全には理解ができないのだ。
そう説明をしたいけれど、言い訳になってしまいそうで口をつぐんだ。それに、たぶん私の覚えの悪さも原因なのだろう。
『ちょっと貸して』
芹沢課長はさらに私の方へとイスを移動させて近付いてくると、腕を伸ばして私が使っているマウスを掴んだ。それを素早く操作しながら、パソコンに表示されている画面を次々と切り替えていく。
『ここ、お前こうやって入力してるみたいだけど、別の方法でやった方が簡単だろ』
どうやら私にソフトの使い方を説明してくれているらしい。
実際の画面を見ながら『こういう場合はここをクリックしてこのページをまず開いて』とか、『このメッセージが出てきたら打ち込んだ数字が合ってないってことだから、ここをクリックして』など、丁寧に指導してくれる。
それに対して『なるほど』とうなずきながら説明を受けていた私だったけれど、次第に芹沢課長との距離の近さが気になり始める。