身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

 同じパソコン画面を覗き込みながらなので自然とその距離が近くなるのはわかるものの、あと少しで肩同士がぶつかりそうなほどの近さに思わずドキドキしてしまう。

 そのたびに、集中集中……と心の中で呟き、芹沢課長の説明に耳を傾ける。けれど、やっぱりドキドキしてしまう。

 ときどき鼻をかすめる芹沢課長の香水の香りや、心地よく響く低音ボイス、マウスを操作する長くしなやかな指。すべてを意識してしまい、だんだんと芹沢課長の説明が耳に入ってこなくなった。

『――おい。聞いてんのか』

 説明のときとは違う不機嫌な声に、ハッとなり顔を上げる。

『は、はい。聞いてます』

 ……嘘です。途中から聞いていませんでした。と、正直に言ったらきっと怒られてしまうから黙っておこう。

『じゃあこのファイルを俺が今説明した手順で開いてみろ』
『……すみません。もう一度ご説明をお願いしたいです』
『つまり、聞いていなかったんだな』

 低い声で問われて正直に『はい』と、うなずいた。

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