身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
ドレスショップには数人の女性客の姿があり、結婚式で着るためのドレス選びに目を輝かせている。そのお手伝いをするドレスコーディネーターたちの姿もあり、私は式場で働いていた頃をふと思い出した。
懐かしい気持ちになりながらドレスショップの店内を眺めていると、ずらりと並ぶドレスの中の一着に目が留まる。それは、私が衣装事業部にいた頃に所属していたブランドのカラードレスだった。
『芹沢課長。あのドレス、私が衣装事業部にいた頃に初めて作ったドレスなんですよ』
嬉しくなって、思わず隣の芹沢社長に声を掛けてしまう。
『どれ?』
『あの薄紫色のチュールドレスです。胸元のレースと刺繍がポイントでかわいいんです』
作ったといっても、ブランド内では一番の新人だった私の意見は少しも繁栄されていないし、やっていたことといえば雑用ばかりだったけれど。
それでも、私が初めてデザインから製作まで関わった思い出のドレスだ。ブランド解体後もこうしてドレスショップに並べられていて、これを着て結婚式を挙げる花嫁がいてくれるのだと思うと、感慨深いものが込み上げる。