身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
そういえば、この人はただの上司ではなくて、親会社である芹沢ホールディングスの御曹司なのだとふと思い出す。
セリザワブライダルの現社長である芹沢華江さんは叔母にあたるらしいし、芹沢課長は人事に口を出すこともできるのかもしれない。
本音を言えば戻りたい。私はウエディングドレスのデザインがしたくてセリザワブライダルに入社したのだから、衣装事業部で仕事がしたいに決まっている。
芹沢課長がどうして私に異動の提案をしてくれるのかはわからないけれど、ここで私がうなずけば、本当に衣装事業部に戻れるのかもしれない。
だけど……。
『けっこうです。私は自分の実力で夢を叶えます。芹沢課長の助けは必要ありません』
私は、きっぱりと断った。
とても魅力的な申し出に一瞬気持ちが揺れ動いてしまったものの、そんなズルをするような方法で衣装事業部に戻るのはフェアじゃない。私にもプライドというものがあるのだ。
自分に実力があるのかはわからないけれど、これからも努力を続けることはできる。そしていつか必ず自分の力で衣装事業部に戻る。
最近ではもうすっかり諦めかけてもいたけれど、なんだか再びやる気がみなぎってきた。