身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

 すると、隣で芹沢課長が静かに笑うのがわかった。

 どうしたんだろう? 不思議に思いながら彼を見ると、込み上げる笑いに耐えている。その手が不意に私の頭に乗せられた。

『それなら頑張れよ、応援してるから』

 私の髪をくしゃっと撫でると、芹沢課長の手がゆっくりと離れていった。


 それからしばらくして、お客様の応対を終えた責任者が戻ってきたので、私たちはさっそくリサーチを始めた。

 小樽のドレスショップでの仕事は順調に進み、予定通りお昼前には終了した。それから簡単に昼食をすませると、午後は札幌にある二号店のオープン予定地を三か所ほど視察することになった。

 街中をタクシーや徒歩で移動したのだけれど、私は相変わらず足首が痛くて歩くたびに激痛が走る。けれど、芹沢課長には悟られないよう必死に我慢した。

 もしもここで足が痛くて歩けないなんて言ったらきっと迷惑を掛けてしまう。それだけは絶対に避けたくて、気付かれない程度に足を引きずりながら札幌市内を移動した。

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