身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

『歩けるか? いや、無理だな。こんだけ腫れてれば痛いだろ。今までよく耐えてたな』

 呆れたような息を吐いたあと、芹沢課長は私に背を向けてその場に再びしゃがんだ。

『ほら』
『え?』
『ホテルまでおぶってやるから乗れ』
『えっ、いや、さすがにそれは無理です』

 顔の前でぶんぶんと両手を振っていると、芹沢課長が私を振り返る。

『じゃあホテルまでその足で歩くのか。ここからだとまだ十五分はかかるぞ』
『えっ、そんなに⁉』

 一歩を歩くのですらかなりの激痛なのにもうそんなに歩けない。

『それじゃあ私は自腹でタクシーを……』
『いいから、早く乗れ。タクシー掴まえている時間がもったいない。それに寒いんだから早くホテル戻るぞ。風邪引くだろ』
『で、でも……。私、重いですよ? さっきラーメン大盛食べちゃったし』
『確かによく食べてたな。うまかったもんな、あの店の味噌ラーメン』
『ですよね。バターとコーンたっぷりでしたし、濃厚なスープに体がぽかぽかと温まりました』

 そんなことを話している場合ではないのだけれど、夕食に食べた味噌ラーメンの味をつい思い出してしまう。

 すると、しゃがんでいた芹沢課長が不意に立ち上がった。

< 58 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop