身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
『どうぞ、こちらに座って』
にこやかな笑みを見せる華江社長に応接ソファへ座るよう促されたので、私はそっと腰を下ろす。
『第三営業課の島本美桜さんね』
『はい。島本と申します』
座ったまま深く頭を下げた。平社員である私が華江社長と話をするのは今日が初めて。
『柊一とお付き合いしているのよね』
ここに呼ばれた時点でなんとなくその話題になると思っていたものの、なんの前触れもなく突然その話を振られて戸惑ってしまう。
『柊一から直接あなたのことを聞いたわけじゃないの。社内で付き合っている女性がいるのは知っていたけれど名前までは教えてくれなかったから』
そこまで話すと、華江社長がふっと笑った。
『でも、柊一も案外うっかりとしているのね。私との会話の中で気付かないうちにヒントをたくさんくれるんだもの。柊一と去年まで同じ課にいた元衣装事業部の女性とだけわかれば、探し出すのなんて簡単なのに』
そう言って、華江社長がにこりと笑う。
けれど、本心ではきっと笑っていないはずだ。