身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
おそらく、これから華江社長は甥である柊一さんのためを思って、私に彼との別れを説得しようとしているのだろう。
だから、彼女がその言葉を告げる前に私は自分から切り出した。
『私はもう柊一さんとは何の関係もありません。しっかりと別れます』
『あら。別れちゃうの?』
華江社長がきょとんとした顔を私に向ける。それから不思議そうに尋ねてきた。
『どうして?』
どうしてって……。それが、柊一さんのためだからに決まっているし、華江社長はその説得を私にしようとしているはずだ。
私という存在がいなくなれば、一度は断ってしまった縁談のことも考え直してくれるかもしれない。そうなれば、柊一さんは予定通りセリザワブライダルの社長に就任して、ゆくゆくは親会社である芹沢ホールディングスをお父様から引き継ぐはずだ。それが柊一さんにとってベストな未来なのだから。
でも、本音を言えば別れたくない。
私はまだ柊一さんが好きだ。この前のプロポーズだって嬉しかったし、彼が私のために選んでくれた婚約指輪だって受け取りたかった。
これからもずっと柊一さんと一緒にいたい……。