身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
『あら、泣いているの?』
華江社長がスーツのポケットからハンカチを取り出して私に渡してくれた。でも、それは受け取らずに自分のハンカチを取り出すと、目に溜まった涙をそっとふく。
そのとき、社長室の扉がノックもなしに勢いよく開かれた。
『華江さん』
呼吸を乱してそこに立っていたのは柊一さんだった。
『柊一ったらそんなに慌ててどうしたのよ』
『どうしたのじゃないだろ』
のんびりとした口調の華江社長に、柊一さんが声を荒げる。
『余計な口は挟まないでくれ』
『ごめんね、柊一。でも、私はあなたのためを思って――』
『これは俺の問題で、あなたには関係ない。……行くぞ、美桜』
柊一さんは私の腕を掴むとグイっと引っ張り、ソファから立ち上がらせる。そのまま扉まで進んでいくと、私たちは社長室を後にした。
私の腕を掴んだまま柊一さんは最上階フロアを無言で進んでいく。その背中から、彼の静かな怒りを感じ取り、私は黙って彼についていった。