愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
お酒をチビチビ飲みながら、こそっと新井さんに耳打ちする。

「なんか調達チームの曽我チーム長って、なかなか厳しいですよね。サバサバしてるというか」

「そりゃそうよ。マリエちゃんは入社時からやり手のキャリアウーマンでバリバリ出世してきた人だからね」

「新井さん詳しいですね」

「芽生ちゃん、私こう見えてここでのパート歴二十年よ」

「えっ、まさかの古株ですか?」

新井さんの経歴を知らない私は新井さんの勤続年数を聞いて驚いた。日頃いろいろなことを知っていて頼りになるなあと思っていたが、まさかそんなに長く働いている人だったとは。人は見かけによらない。

「日下くんもさ、奥さん亡くしてよく復活したと思うわ」

新井さんの口から思わぬ日下さんの名前が出て、私の心臓はドキッと跳ねる。

「新井さん、日下さんのことも知ってるんですか?」

「そうよぉ。日下くんが入社したとき同じチームだったの」

「えっ!ずっと資材チームじゃないんですか?」

「パートだからね、いろんな部署をたらい回しされることもあるのよ」

「それにしては資材で貫禄ありすぎです」

「年の功ってやつね。ふふ」

「あの、日下さんの奥さんって……どうしてお亡くなりに?」

私の質問に、新井さんは少し声のトーンを落とした。

「白血病だって。余命を知ってて結婚したんだって」
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