自分勝手な恋
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
その週末、松木さんは――和也さんは二カ月の出張に行ってしまった。
せっかく想いが通じ合ったのに寂しくて、でも言えなくて。
和也さんも何度もぼやきながら出発した。――――はずなのに、次の週末には帰ってきてくれた。
それから週末ごとに毎回。
ギリギリまで日本で過ごし、上海に戻る。
もちろん交通費は自腹で、気になってそのことに触れると、「こういう時に金は使うもんだろ?」って、和也さんは笑っただけだった。
外資系のこの会社は能力主義だから、マネージャーの和也さんのお給料ははっきり言ってすごい。
それに出張時にはビジネスで移動できるとか待遇も良くて、初めの頃は処理するたびに驚いていたことを思い出しながら、素直に甘えることにした。
やっぱり、たくさん会えるのは嬉しいから。
――恋に落ちてから三年目の春、私たちは結婚した。
初めは反対していた両親も、何度も話し合って和也さんの人となりを知ってからは認めてくれ、祝福してくれた。
式は近しい親族とごく少数の友人だけを招いた簡素なものだったけど、土壇場で父が「やっぱり嫁にはやらん!」なんて言い出して母に怒られていたのはいい思い出になっている。
その後、ヨーロッパ各地で過ごしたハネムーンでは、和也さんは久しぶりにマスクなしの春を満喫できたようで、とても喜んでいた。
もちろん、何度かくしゃみはしていたけれど。
そして来年の春には、日本にいても花粉のつらさを忘れられるくらいの喜びが待っているはず。
だからまずは今夜、もうすぐパパになることを伝えるつもり。


