内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
「……今はショックかもしれないけれど、最後には必ず私に感謝することになるわ、大雅さん」
 そう捨て台詞を吐いて、くるりと踵を返すと奈々美は颯爽と部屋を出て行く。
 バタンと扉が閉まると同時に、大雅は黒い椅子に椅子に座り込んだ。力が抜けて、永遠に立ち上がれそうにないくらいだ。
 山城が深々と頭を下げた。
「副社長、申し訳ありません‼︎」
 そしてそのまま事情を説明し始めた。
「あの資料は私が秘密裏にまとめさせたものです。大泉さんはもちろんのこと、秘書室の誰にも見せてはおりませんでした。ですが……!」
「頭を上げてくれ」
 そう言って大雅は長いため息をついた。
 以前、祐奈のことを調べようかという山城に提案された時、大雅は明確に拒否をした。
 それでも調べたという彼の行為は確かにスタンドプレーだが、不測の事態に備えたかったという気持ちはよくわかる。
 それに今まで大雅は、山城のこういうところに何度も助けられてきた。今回のことのみを切り取って、叱責するわけにはいかないだろう。
 問題は上司の資料を勝手に盗み出し、大雅のところへ乗り込んできた奈々美にある。
 彼女がいなければ、よほどのことがない限り、この資料は誰の目にも触れることはなかったはずだ。
「……君のことを責めるつもりはない。とにかく大泉さんを、秘書室から適当な部署へ異動させてくれ。今抱えている案件がひと段落したら、頭取には話しをして、社会勉強は終わりにしてもらうから」
 大雅の言葉に、山城が神妙に頷いた。
「かしこまりました。ちょうど受付に欠員がありますから、そこへ」
 そして心配そうに眉を寄せた。
「副社長、次の予定ですが、キャンセルされますか。……本日はもうお帰りになられては……?」
 資料の内容にショックを受けている自分を気遣う忠義な部下の進言に、大雅はため息をついて首を振った。
「いや、大丈夫だ。……時間になったら呼びにきてくれ」
 頷いて山城が退出すると同時に、大雅は黒い椅子にもたれて天井を仰ぐ。
 崖の上から谷底へ突き落とされたような気分だった。
 なにも知らずに、君を愛しているなどと口にしていた自分が恥ずかしい。
 祐奈を苦しめていたのは、ほかでもない大雅自身の存在そのものだったというのに。
 彼女はいったいどんな思いで、大和を産み、育てて、大雅を彼の父親だと認めてくれたのだろう。
 宇月からたったひとりで上京して、父親の代わりだという東京タワーを、彼女は毎晩見つめていた。
 その東京タワーに大雅は祐奈への愛を誓った。
 そんな資格など、自分にはなかったというのに……。
「祐奈……!」
 愛おしい人の名を口にして、窓の外の景色から逃げるように大雅はぎゅっと目を閉じた。

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