内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
再会
 東京のアパートを引き払う時に、念のためと荷物に入れたパンツスーツに身を包み、祐奈は役場のエントランスに立っている。
 山から下りてくる強い風に黒い髪をなびかせて。
 今日は、天沢ホテル側の責任者が宇月温泉に来る日だった。
 宇月温泉は都内から、高速を使って約二時間。
 さっき最寄りのインターを下りたという連絡が入ったから、もうすぐ役場に着くはずだ。
 隣では田原と、都築という男性担当者がやはり緊張した面持ちで、先方の到着を今か今かと待っている。
 結局祐奈はプロジェクトのメンバーに加わった。
 土地の買収うんぬんなどの難しいところまでは関われないが、案内所の仕事をメインにしながら、天沢側との協議の場面に適宜立ち会うという方向で。
 今日はその第一日目だった。
 天沢ホテルとのやりとりは順調に進んでいる。懸念された遊具の撤去問題もなんとかなりそうだと田原は言っていた。
 だが最終の決定を下すのは、この件を取りまとめる統括責任者。その責任者が今日はじめて宇月温泉を訪れる。
 天沢ホテルに対する祐奈の気持ちは、相変わらず複雑なままだった。
 地元の人たちと対立しても天沢に味方をした父を、あっさり裏切り去っていった男、天沢宗久。
 今は社長だとというその男に対する憎しみが、祐奈の胸に燻っている。
 葬儀にも姿を見せなかったということは、友人だという話も嘘だったのかもしれない。ただそのようなフリをして、ビジネスを有利に進めようとしていたのだろう。
"秋月旅館の主人は天沢ホテルに殺された"
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