内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
「大雅さんとは、ちゃんと話をしなさいね」
 涙を拭いて諭すように母が言う。
 祐奈はそれに返事をすることができなかった。
「ちゃんと、話をしなくちゃ」
 もう一度母は言う。
 その言葉を聞きたくなくて、祐奈はかぶりを振った。
「話すことなんか……、話すことなんかなにもない」
「またあなたは……」
 母がため息をついた。
「祐奈の悪いクセよ。あなたはいつもそうやって、話をしないでひとりで結論を出してしまうのよ。小さい頃からそうだったわ」
 祐奈は黙り込んで、大和の口に最後のアイスクリームを含ませた。
「……怖い?」
 優しく尋ねられて、祐奈は目を見開く。
 心の中を見透かされたような気がした。
 ……話すことなんかなにもない。
 ……話をしても無駄。
 自分はいつもそうやって、現実から目を逸らしてきた。
 怖かったからだ。
 真実を知って、傷つくのが怖くて逃げ続けてきた。
「大和のこともあるんだから……」
 そう言って母は、優しい眼差しで大和を見つめる。
 その視線の先で、大和が空っぽになったアイスのカップを不満そうに指差して、「すっ! すっ!」と繰り返した。
 その姿に、大雅が彼に嬉しそうにアイスクリームを食べさせていた光景が目に浮かび祐奈はハッとする。
 そうだ、自分はもうこの子の母親なのだ。
 怖い怖いと逃げ回っていては、大和を幸せにすることなどできない。
 愛する人の口から、真実聞くのは怖い。
 もしかしたらまた傷ついてしまうかも。
 でももう一度、大雅を信じてみよう。
『俺はもう二度と君を傷つけない』と言ってくれた彼を……。
 手に持っていたハンカチをぎゅっと握り締めて、祐奈は母を見る。
 そして決意を込めて口を開いた。
「お母さん、お願いがあるの」
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