内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 天沢ホテルグループ本社ビルの副社長室で、足元まである大きな窓から、天沢大雅は東京タワーを眺めている。
 赤と白のその光は、かつて大雅が足しげくかよった祐奈のアパートの窓からも見ることができた。
 彼女が勤めていたプライマリーホテルにはホテルからほど近い場所に社員寮があったのに、彼女はそこへ入らずにわざわざ少し離れた場所にアパートを借りていた。
『私、東京へ来たら東京タワーが見える部屋に住もうと決めていたの』
 そう言ってビルの隙間から見える小さな小さな東京タワーを飽きることなく眺めている横顔が、大雅はなによりも好きだった。
 少し憂いを帯びたその眼差しを誰よりも愛していた。
 思いがけず再会した、二年ぶりの祐奈は少しほっそりとして、でも記憶の中の彼女、そのままだった。
 黒い艶のある真っ直ぐな髪、澄んだ瞳、少し高い柔らかな声音。
 あのアパートで大雅を笑顔で迎えてくれた祐奈のままのように思えたのに……。
 少し前から降り出した雨がガラスの窓に水滴を作り、都会の街のネオンがにじむ。
 大雅はそれをジッと見つめる。
 その時、副社長室のドアがコンコンとノックされる。
 大雅は振り返って、「どうぞ」と返事をした。
 ドアが開いて、秘書の山城が入室した。
「副社長、本日は遠方までおつかれさまでございました。お帰りの車の準備が整っておりますが」
 大雅は頷く。
 夕方に宇月温泉を出発して、本社へ戻ったのが午後七時。
 その後すぐに残務処理をして、今は午後九時を回ったところだ。
 今日の予定はもうないから、あとは家へ帰るだけだった。
 大雅はチラリと窓の外に視線を移す。そして少し考えてから口を開いた。
「……今日は、もう少ししてから帰ることにするよ。自分で帰るから車もいらない。山城も先にあがってくれ」
 その言葉に、山城がノンフレームの眼鏡の奥の切れ長の目を瞬かせた。
 本社から大雅が住むマンションはそれほど遠くはない。
 本来ならば、わざわざ運転手付きの車で送ってもらうほどの距離でもないのだ。それでも四年前に副社長に就任してからは、立場の関係上そうしていた。
「どうかしたか?」
 上司からの言葉に小さく首を傾げたまま、いつまでも答えない山城に、大雅は眉を上げて問いかける。
< 26 / 163 >

この作品をシェア

pagetop