内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 山城がやや戸惑うように口を開いた。
「いえ、……ただ、副社長がそうおっしゃられるのが久しぶりだなと思いまして」
 大雅が『自分で帰る』と言ったことに対する言葉だった。
 二年前はよくこう言って車での送迎を断り、ひとり祐奈のアパートへ行った。
 電車に乗って、コンビニに寄って。
 大雅は小さくため息をついて「そういう気分なんだ」とだけ言った。
 腹心の部下である山城はそれ以上はなにも言わず、頭を下げて部屋を出てゆく。
 それを見届けてから大雅はまた窓の外を眺めた。
 祐奈は東京タワーを、亡き父親との思い出の場所だと言っていた。
 実家が旅館を経営していたから、遠出をすることができなかった幼少時代、一度だけ家族で来た東京で父親と見た東京タワーが、忘れられなかったのだという。
『東京タワーを見るとお父さんを思い出すの。知り合いのない東京でもあの赤い光を見ると、お父さんに見守られてるような気がするのよ。だから私このアパートに住むことに決めたの』
 半年あまりの付き合いの中で、自らの立場を彼女に偽ったのは、自分の中の弱さだったと自覚している。
 天沢ホテルの御曹司として、生まれながらにして重圧を背負い続ける人生に、少々疲れていたというのは言い訳にしかならないだろう。
 常に結果を求められる生活の中で、なに者でもなくただそばにいればいいという祐奈との時間は、大雅にとってなににも代えがたい大切な大切な時間だった。
 それは失ってしまった今の方が、より強い思いとなって、大雅を苦しめ続けている。
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