【完】片手間にキスをしないで
石橋を叩くように慎重な美々に、夏杏耶は首を傾げる。朝礼の時間も迫ってきたので、歩きながら話を聞くことにした。
「大学でさ、実はカーヤちゃんが連れ去られるところ、見てたんだ。私」
「え……そう、だったんだ」
「遠かったけど……海理くんはそんなわけないって言ってたけど、ずっと気になってて」
こちらに預けられる視線に、ドキリと心臓が跳ねる。
無理やり地下へ連れ去られたことも、ミャオが鮎世にしたことも、静と美々には黙っていたからだ。
「心配、してたの」
「……美々」
少し湿ったその瞳に、夏杏耶は喉を鳴らした。
……ずっと、本当に気に掛けてくれていたんだ。
「昨日の放課後、カーヤちゃんに直接聞こうと思って……それでここまで付いてきちゃって」
「……うん」
「びっくりした。カーヤちゃんが入った部屋から、冬原先輩が出てきたから」
美々に目撃されたのはちょうど、バイトに出る彼と入れ替わる時間帯だったらしい。