【完】片手間にキスをしないで


半身を包み込むように、背に腕を回していたのが本当に『冬原奈央』なのだと、今更実感してしまったから。


「好き……なの?」


疑いをもろに含ませて恐る恐る見上げると、正面から大きなため息が漏れる。


と同時に、彼は額を抱えながら「いや、俺が悪いよな」とうなだれた。


「夏杏耶」

「はっ、はいっ」


流された視線に背筋を張ると、彼は夏杏耶を囲うように手をついて、再びベッドを軋ませる。


その艶っぽい音に心を乱した直後、見兼ねたように奈央は、触れるだけのキスを落とした。


本当に……どうしちゃったの奈央クン……今日はいい加減、心臓が持たない。


「……何も思ってない奴に、こんなことしねぇだろ。普通」


至近距離で捉えられる視線と、吐息交じりの低い声に、どうしてか涙腺が緩む。


つぎに、力強く引き寄せられる身体が、芯から熱を帯びていく。


「……っ」


肩と腰へ器用に回される腕のなか、夏杏耶は初めて、奈央の心臓の音を聴いた。

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