【完】片手間にキスをしないで
「ここで話すの、やめとくか」
「っ、大丈夫……!」
「じゃあ、遠慮なく」
ギィッ、とベッドの軋む音。互いの布が擦れる音。耳元に触れる、彼の微笑み。
すべてが脈を荒立てて、ショートしてしまいそうで。暗がりに馴染んだ瞳が、キョロキョロと視線の的を探す。
こういうときは、どこを見たらいいんだろう。
「俺がキスをしたいと思うのは、夏杏耶だけだ」
そう、余計なことを考えていたから、告げられた言葉はぼんやりと脳に沁みこんで。
夏杏耶は数秒経ってからようやく「ほ、ほんと?!」と声を上げた。
「お、まえ……耳元ででかい声出すなよ……」
「ご、ごめんなさいぃ……でも、だって」
「付き合ってんだから、別に驚くことじゃねぇだろ」
「驚くよ……奈央クンは私のこと、好きじゃないのに」
「……は?」
眉を顰めた彼の表情が、視界を占領する。瞬間、剥された体温が名残惜しいと思うと同時に、夏杏耶は胸をキュッと締め付けた。