【完】片手間にキスをしないで
「聞いてるけど」
「うそ。聞いてないもん」
「先生に嫉妬したって話だろ」
「……それだけじゃないもん。ちゃんと、汲み取ってよ」
「だから、何をだよ」
うざったい、と不本意にも聞こえる心の声。せっかく持ち直した機嫌が、また悪くなる。
証拠に、乱切りが言葉通り乱れてきた。
「どうして私に隠してたの……先生には、言えるのに」
それでも臆せず、夏杏耶は彼の裾を握りながら、口を尖らせた。
美々が言っていたように、私は前進しかできないらしい。と、ほとほと呆れながら。
「いっしょに住むの、嫌がってたのもそのせい……?」
「さぁな」
「ねぇ、先生とはいつから2人で会ってたの?」
「……」
「月曜日……毎週、月曜日なんだよね? じゃあ、これからは私も───」
「……あぁもう、うるせぇ」
カシャンッ───乾いた金属音が響く。
シンクに包丁が落ちたからだと悟ったとき、夏杏耶は目を見開いた。
「──っ?!」
彼が、続く言葉を溶かしたからだ。冷たい、その唇で。