【完】片手間にキスをしないで
野暮と言われようと、関係ない。
今まで寄りつく女子の影ひとつなかった彼に、初めて覚えた感情。正気を保てるはずもなかった。
「嫉妬? なんでだよ」
「……だって。先生は、奈央クンの秘密知ってたわけだし」
制服に染みついていた香りのワケも、全部。百田先生は、私よりずっと先に知ってたんだ。
「ただレクチャーしてもらってるだけだろ、作り方」
「それは、そうかもしれないけど、」
「ん。何が気がかり」
「ぜんぶ」
「……へぇ」
ザクッ、ザクッ。
2人前を切り終えたキャベツをザルに移す奈央は、流れるようにピーマンを洗う。
もしかして『一緒に住む』と電話を入れたあのときも、ながら聞きをしていたのかな……いや、料理じゃなくて、お菓子を作りながら。
「奈央クン……聞いて」
夏杏耶は腰元の袖を、控えめに握って身を寄せた。