身ごもりましたが、結婚できません~御曹司との甘すぎる懐妊事情~
凛音は写真を見ながら会いたい気持ちをやり過ごそうとするが、さらにその想いが強くなるだけだった。

こんなことなら一緒に家を出ればよかったと後悔するのはいつものこと。

けれど、柊吾との関係を同僚たちに知られないよう別々に出勤し、会社で顔を合わせても仕事以外の話は避けている。

柊吾はそれが不満なようだが、凛音と柊吾の関係が社内の女性たちに知られると面倒なので渋々納得してくれている。

「関係……」
 
自分たちの関係についてふと考え、凛音はそれまで柊吾への恋心に震えていた胸に鋭い痛みを覚えた。

凛音は手元のスマホに表示されている写真に再び視線を落とす。

この春、桜の名所として知られる郊外にふたりで出かけたときに撮った写真だ。

雲ひとつない青空の下で大枝を広げ、満開の桜の花びらをまとった樹を背景にして凛音と柊吾は屈託のない笑みを浮かべている。

柊吾は凛音の肩に手を回し、その表情は柔らかくふたりの時間を心底楽しんでいるとわかる。極上の写真だ。

お気に入りのその写真を見るたび、凛音は複雑な思いにとらわれる。

この日は気温が高くて暑く、凛音は長い髪をすっきりとポニーテールにしていた。



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