身ごもりましたが、結婚できません~御曹司との甘すぎる懐妊事情~
凛音にモンブランを買ってくるのは、凛音に瑠依の面影を重ね、幸せだった恋人時代をやり直しているからだろう。

今も瑠依を忘れられず、彼女と似ている凛音を身代わりにして寂しさを紛らわしているのだ。

だから柊吾がモンブランを用意するたび、自分は瑠依の身代わりに過ぎないのだと念を押されているようで切なく、苦しい。

けれどどれほど苦しくても柊吾への愛を捨てられず、たとえ身代わりでも離れられない。

柊吾がこの先結婚したとしても、愛人として側に置いてもらえるのならそれでもいいかと思ってしまう。

凛音は全身に満ちる痛みをやり過ごすようにふうっと息を吐き出し気持ちを落ち着ける。

何度もこの現実に落ち込んできたが、今はこれまでになくきつい。

どうすれば瑠依のように愛してもらえるだろうかと散々悩んできたが見合いの話が持ち上がっている今、それもそろそろ時間切れかも知れない。

結局、身代わりは所詮身代わりなのだ。

そのとき、目の前のフライパンからバターが焦げる音が響き、香ばしい匂いがキッチンに広がった。

「う……っ」

寝不足の影響なのか凛音は再び吐き気を覚え、思わず口元に手を当てた。




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