百怪談
智則の様子が変だと思いました。
まるで心がどこかに消えてしまったかのように、智則は表情を変えずにじっと前だけを見ていたのです。
私はそんな智則を見ながら、何か起きてはならないことが起きている予感に恐怖していました。
もしかしたら、あのお札が貼られた木箱を開けてはいけなかったのかもしれない。
もしかしたら、私たちは……。
私の心の中に恐怖が広がり始めたとき、智則が急に私の手を勢いよくつかんできたのです。
私はそれにハッとして、怯えながら智則の顔を見上げました。
すると、智則はまるで焦点の合っていない目を私に向けて、私の手をさらに強く握ったのです。
そして智則は今まで聞いたことのないような低い声で、私にこう言ったのです。
「この部屋から出ていけ」と……。