シオン
あの人の顔は思い出せない。
でも一つだけ覚えている。
私だけに向けられた言葉と表情。


君の笑う顔が頭を駆け巡っている。



話すことなんてないと思っていた。実際的に、大したことではない。けれど、話しかけようと思う度に、私の胸は高鳴っている、気がした。


彼は笑顔が似合う人だ。私とは違う人種。
彼は優しくて、本当に優しくて。

まだ私は彼のことをよく知らない。数日過ごせばわかることくらいしか。


彼に恋をしそうになっていたと思う。

でも駄目なんだ。私は彼に恋をしてはいけない。ううん、恋をしてはいけない。
私は恋をしたら人でなくなってしまう。

猫になってしまうのだ。

想いが高まれば高まるほど、その危険性は比例するように高くなる。
今までは平気だった、そんな体質なんかじゃなかった。何故なのかはわからない。


猫になるといっても1〜2時間程度、2〜4週間おき。人に恋をしなければ変化はしない。
後に間隔は1日、いや数時間おきになり、人に戻れなくなる。

記憶もなくなるかもしれない。

だから私は、そうとわかった日から決めていた。「人に恋をしない」と。恋におちてしまったら、離れると。

でも、君は、忘れたく、離れたく、ない。
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