身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
マンションへ戻ったのは、夜の十時。
あの後、友恵ちゃんと軽食をオーダーして、ずっと話し込んでいた。
なんでも、友恵ちゃんの彼は作家をしている人で、年齢は三十三歳。二年半ほど前に伯父が主催のパーティーで知り合ったと聞いた。
それからお互い気が合って友人として付き合っていたのだが、徐々に特別な感情が芽生えていって、今から約一年半前に晴れて恋人同士になったとか。
彼はお世辞にも売れている作家とは言えなくて、伯父の反対が怖かった友恵ちゃんはずっと密やかに愛を育んでいたらしい。
誰にも気づかれないよう、ひっそりと交際をしていたなんて、おっとりした友恵ちゃんっぽい。
私は彼女の馴れ初めを思い出し、頬を緩ませていた。
リビングに入るときには、表情を気を引きしめる。私がドアを引くと、ソファに座っていた成さんが読んでいた本から視線を上げた。
「おかえり」
「あ、ただいま戻りました」
私はキーを定位置であるキャビネット上の小物トレーに置く。
「なに? その業務的な挨拶。もう正式に俺たち恋人でしょ? 気を使わないで」
眼鏡をかけている彼は本を閉じてテーブルに置き、ソファからゆっくりと立ち上がる。
私は成さんが近付いてくるのを察し、ふっと視線を背けた。
「……頑張ります」
はっきりと恋人宣言されると、なんだか気恥ずかしくてまともに顔を見られない。
よくよく考えたら、社会人になってから誰とも付き合っていなくて、こういう関係自体ブランクがある。
すると、成さんが急に耳元に口を寄せてきた。
「頑張って。俺、昨日で満足してないから。もっと距離を縮めたい」
色気たっぷりのウェットな声で直にささやかれ、心臓が飛び出しそうなほどドクドクいっている。
間近にいる成さんを見上げると、にっこりと余裕の笑み。
「にっ、荷物置いて、シャワー借ります!」
私は堪らず逃げるようにしてリビングを出た。荷物を部屋に置いて、ひとつ息を吐く。
私……こんなに恋愛に免疫なかった?
会話はおろか、目すら合わせられないって……初めての彼氏じゃあるまいし。
でも……ある意味初めてだったから。あんなふうにすべて晒したのは。
昨夜、抱き合った記憶が勝手に脳内で再生される。
途端に私は羞恥に駆られ、その場に崩れ落ちて顔を覆った。
終始いっぱいいっぱいだった。
成さんが優しくて、言葉で言い表せないものが胸にいっぱい広がって……。
そうして、私は夢中で成さんに縋っていたのだけど。
ああ、ダメだ。今日は油断していたら一日煩悩にまみれてる気がする。
気分転換も兼ねて、私はそそくさとバスルームに向かった。
あの後、友恵ちゃんと軽食をオーダーして、ずっと話し込んでいた。
なんでも、友恵ちゃんの彼は作家をしている人で、年齢は三十三歳。二年半ほど前に伯父が主催のパーティーで知り合ったと聞いた。
それからお互い気が合って友人として付き合っていたのだが、徐々に特別な感情が芽生えていって、今から約一年半前に晴れて恋人同士になったとか。
彼はお世辞にも売れている作家とは言えなくて、伯父の反対が怖かった友恵ちゃんはずっと密やかに愛を育んでいたらしい。
誰にも気づかれないよう、ひっそりと交際をしていたなんて、おっとりした友恵ちゃんっぽい。
私は彼女の馴れ初めを思い出し、頬を緩ませていた。
リビングに入るときには、表情を気を引きしめる。私がドアを引くと、ソファに座っていた成さんが読んでいた本から視線を上げた。
「おかえり」
「あ、ただいま戻りました」
私はキーを定位置であるキャビネット上の小物トレーに置く。
「なに? その業務的な挨拶。もう正式に俺たち恋人でしょ? 気を使わないで」
眼鏡をかけている彼は本を閉じてテーブルに置き、ソファからゆっくりと立ち上がる。
私は成さんが近付いてくるのを察し、ふっと視線を背けた。
「……頑張ります」
はっきりと恋人宣言されると、なんだか気恥ずかしくてまともに顔を見られない。
よくよく考えたら、社会人になってから誰とも付き合っていなくて、こういう関係自体ブランクがある。
すると、成さんが急に耳元に口を寄せてきた。
「頑張って。俺、昨日で満足してないから。もっと距離を縮めたい」
色気たっぷりのウェットな声で直にささやかれ、心臓が飛び出しそうなほどドクドクいっている。
間近にいる成さんを見上げると、にっこりと余裕の笑み。
「にっ、荷物置いて、シャワー借ります!」
私は堪らず逃げるようにしてリビングを出た。荷物を部屋に置いて、ひとつ息を吐く。
私……こんなに恋愛に免疫なかった?
会話はおろか、目すら合わせられないって……初めての彼氏じゃあるまいし。
でも……ある意味初めてだったから。あんなふうにすべて晒したのは。
昨夜、抱き合った記憶が勝手に脳内で再生される。
途端に私は羞恥に駆られ、その場に崩れ落ちて顔を覆った。
終始いっぱいいっぱいだった。
成さんが優しくて、言葉で言い表せないものが胸にいっぱい広がって……。
そうして、私は夢中で成さんに縋っていたのだけど。
ああ、ダメだ。今日は油断していたら一日煩悩にまみれてる気がする。
気分転換も兼ねて、私はそそくさとバスルームに向かった。