身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 シャワーを浴び終えてリビングに戻ると、成さんは先ほどの続きで本を読んでいた。

「まだお休みになってなかったんですね」
「うん。待ってた」

 無邪気に言われ、私はまたドキッとする。

 この間まで、私どうやって過ごしていたんだっけ。
 というか、もう今となっては、成さんと同居したってなにも変わらないし平気だって思い込んでいた自分が信じられない。

 冷静に、と言い聞かせていたときに、成さんがキャビネットの前に立って言った。

「これ、付けてくれてるんだ」

 彼が手に取ったのは、私が借りているこの部屋のキー。
 そして、キーには軽井沢で買ってもらった、もちマロのキーホルダーを付けていた。

「はい。迷ったんですけど、使わないのももったいないかなあって」
「そう。ねえ。ほかのふたつ、まだ余ってる?」
「え? はい。そのままですよ」

 成さんが私のキーをそっと戻し、申し訳なさげに言う。

「買ってあげておいてなんだけど、よかったらひとつ譲ってほしいな」
「それは構いませんけど……」

 元々成さんが買ってくれたものだから譲るのは一向に構わないけれど、いったいなにに使うんだろう。

 不思議に思いつつ、私はキーホルダーを取ってきてふたつ差し出した。

「どちらがいいですか?」
「どっちでもいいの? じゃあ……おやきを持ってるほうにしようかな」

 長野の名物おやきを手に持つもちマロキーホルダーを成さんが持った。

 成さんとキャラクターグッズはミスマッチで、なんだか面白い。

 いったいキーホルダーをどうするのかと思って見ていれば、成さんは自分の自宅キーにそのキーホルダーを取り付け始めた。
 私は目を白黒させる。

「うん。いいね。梓がいつも一緒にいるみたい」

 私は並んで置かれた二本のキーを見て、顔を真っ赤にした。

 成さんは私の乾かしたばかりの髪を、繰り返したおやかに撫でる。
 四度目に指を滑らせた時、彼の顔が近付いてきた。
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