身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 ようやく事の重大さに気付いて反応する。
 だけど、剛士さんは腕を緩めるどころか強めて私を離さなかった。

 私が両手で胸を押し退けて抵抗したら、剛士さんの腕の力がふっと弱まった。
 彼を見上げると、じっと見つめ返される。

「そういう顔も、もう見せたのかな……?」
「え……っ」

 私が答えにたどり着く前に、彼は頭を傾けて私に近付いてきた。

 キスされる――。

 瞬時にそう感じて、私はぎゅっと目を瞑って顔を背けた。
 そのとき、誰かの腕が私の口元を覆った。

「なにを……してるんですか?」

 どこか知的さを感じさせる、低い声。

 でも私は、その聞き覚えのある声よりも先に、鼻先を埋めているコートの香りで正体に気付いていた。

「鷹藤さん!」

 驚く剛士さんの声で、自分の答えが正解だとわかる。

 私はそのまま成さんによって、剛士さんから引き剥がされた。が、ストラップリングを握る手は剛士さんに囚われたまま。

 成さんは彼に握られている私の手を一瞥して、鋭い視線を向ける。

「紀成さん。彼女は私の婚約者です。手を出すのは許しませんよ」

 成さんは、口調は至って丁寧なのに抑揚がなく冷たい感じがとても怖い。その声音だけで彼が激昂しているのが伝わってくる。

 それにもかかわらず、剛士さんはにこやかに返した。

「なにって、さっき鷹藤さんも夕花としてたことと同じことです」

 余裕に満ちた態度に絶句していると、さらに続ける。

「なんで外に出てきたんですか? てっきりあのまま夕花と部屋に行ったのかと」
「部屋に行く理由がありませんから」

 成さんも負けずに即答する。
 夕花さんのもとには行かずにいてくれた事実に、私は内心ほっとしていた。

「紀成さん。その手を早急に離していただけますか」

 私の身体に巻き付いている成さんの手は、徐々に力を込められているのがわかる。

「どうしようかな。だって、今彼女を元気づけられるのって、案外僕かもしれません」

 剛士さんはそれを知ってか知らずか、挑発を続けた。
 次の瞬間。

「――離せ」
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