身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 タクシーでマンションに戻った私たちは、部屋に入るまで無言だった。
 ただ、ずっと成さんは私の手を繋いでいた。

 成さんがリビングに入って、そのままソファへ向かい、腰を下ろした。
 私は成さんと向かい合って見下ろす。

 すると、成さんが今度は私の両手を取って握った。

「梓があの場所に来ていたなんて驚いた」

 成さんは片時も目を逸らさずに話を続ける。

「ごめんね。マチラの副社長とは予定通り会ったんだけど、直前になって食事は夕花さんと一緒にしてほしいって頼まれて」

 心の中で『やっぱり』と腑に落ちるも、私は相槌も口に出せなかった。
 彼は至極真剣な双眼で私を見上げる。

「副社長を見送った後、うまく断ろうとしたら『改まって話がある』と言われたから。なにか特別な感情を明示されれば、きっぱり断れると思ったんだ。だから、敢えて話に乗った。余計な誤解を招きたくないから、個室じゃなくカウンター席を選んでね」

 そういう流れは考えれば想像はできたと思う。
 だけど、ふいうちで夕花さんが抱きつくシーンを目の当たりにしてから、冷静でいられなくなってしまって……。

「もちろん、今夜梓に包み隠さず話すつもりでいたよ。でも、さっきの紀成さんの発言から察するに、どうやらバーを出た直後のところを見られていたみたいだね」

 成さんに微苦笑を浮かべて言われ、私もまた罪悪感が募る。

「すみませんでした……。私がもっと強く拒否をしていたら」
『余計なお世話』とか言いつつも、心のどこかで成さんと夕花さんが気になっていたから、剛士さんについていってしまったんだ。
「いや。俺こそ一瞬油断していたし、そんなところを見せて悪かった。念のため言っておくけど、誘われたけど断ったしキスもしてないよ。梓と一緒で、避けたから」

 これまで優しい声音だった成さんだったけど、最後のひとことはどこか冷たさを感じるもの。

〝梓と一緒で〟という言葉から、私もまた成さんと同じことをして、同じように傷つけたと思い出した。

 心なしか、私の両手を掴む力が少し強まった気がする。
 そのとき、成さんがぽつりと問いかけた。
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