身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「――友恵ちゃんから?」

 間違いなく、差出人は〝時雨 友恵〟となってる。

 まったく予想がつかなくて、なんとなく中身を見るのが怖くなってきた。

 訝しい視線を成さんに向けるも、彼は柔らかな表情でいるからすぐに不安は薄れていった。
 すでに封の開いた手紙を開く。それを見て、私はさらに驚いた。

【わたくしにはすでにお慕いしている方がおります。大変申し訳ないのですが、鷹藤様から今回の縁談をお断りしていただけませんでしょうか。こんな失礼なお願いをしますことのご無礼をお許しください】

 消印を確認すると、お見合いよりも約二週間前の日付だ。

 友恵ちゃんは、内密に成さんへ事前に知らせていたの?

「友恵さんのお父様はかなり厳しい方みたいだね。まあ、友恵さんは自分でお父様を説得するのが難しいという理由もあったんだろうけれど、俺の体裁も気にしてくれてたんだと思う」
「体裁……」
「彼女が断られる側になれば、俺の矜持は保てると考えてくれたんだろうね」

 確かにあの伯父を説得するのは難しかったと思う。

 友恵ちゃんは気が優しいし……。それでどうしようもなくなって、家を飛び出したんだと思っていたけど、成さんにはこうしてひとことお詫びしていたんだ。

「あっ。だから成さんは、私が代わりにお見合いに行ったことに『驚きはしなかった』って言ったんですね」

 初めてのデートで私の質問にそう答えて、『出会えてよかった』って言ってくれた。

 成さんはにっこりと口角を上げて、もう一通手紙を渡してくる。

「え? まだあるんですか?」
「これはつい最近届いたもの」

 その封筒にもやっぱり友恵ちゃんの名前が書かれていた。

 おずおずと中身を開き、丁寧な挨拶文から読み進めていくと……。

【梓ちゃんに話してあげてほしいのです。きっと大丈夫ですよ。恋はこれまでの価値観をひっくり返す力がありますから】

 ……えっ。なに、これ?
 友恵ちゃんはどういう意味で……。
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