身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 気づけば土曜になっていた。今週はやたらと早く過ぎた感じだ。

 電話では流されて約束してしまった。
 あの後、激しく後悔したのだが、どのみち私の意思を伝えなければならないと思うから、今日はいい機会だと前向きに捉えた。

 実は親を通して断ってもいいかな……ってちょっと考えていたのだけど。もうこうなってしまったんだから仕方ない。
 いい大人だし、面と向かって話をしよう。

 改めて自分の気持ちを確認し、部屋を出る。リビングに向かって「出かけてくるね」とひと声をかけて家を出た。

 成さんからは、昨日の昼にメッセージをもらっている。
 待ち合わせは渋谷駅近くのカフェに十時。

 腕時計で時間を確認する。急がなくても余裕で着きそうだ。

 それに今日は着物じゃないし、動きやすい。
 たかが服装とはいえ、かなりリラックスしてる。

 この調子なら、雰囲気に負けずはっきり断れそう。この間は着ているものも場所もシチュエーションも、なにもかも非現実だったからなあ。

 電車に揺られ、乗り換えをして渋谷駅に到着する。
 待ち合わせ時間まではあと十五分。約束の場所までは五分もかからないはず。

 そして目的のカフェが見え、入り口で立っている成さんを見つけて思わず足を止めた。

 遠目から見ると、カフェの利用客はもちろん、通りすがりの女性たちから注目を浴びているのが一目瞭然だった。

 それもそのはず。長身で九頭身のスタイルは一般人離れしていて、立っているだけで絵になる。
 服装も黒の細身パンツにオフホワイトのシャツ、ネイビーのチェスターコートできれいめシンプルな感じで似合ってる。

 うっかり私もほかの女性と同様見入っていたら、彼がこちらに気がついた。

「梓さん」

 彼は瞬時に笑顔になって、私の名を呼ぶ。瞬間、私の心臓はドクドクと騒ぎだした。

 今日は緊張せずに過ごせそうと思っていたのに、成さんの言動ひとつで覆される。
< 19 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop