身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「こ……こんにちは」
「こんにちは。和服もよかったですけど、私服も可愛いですね」

 臆面もなく褒められてどぎまぎする。

 ストレートな表現は、海外仕込みなのかな。確か、この間まで海外赴任していたって話だったし。
 だったら、ここは深読みせず単なる挨拶だと受け取るのがベストだよね。

「えっ。そ、それはどうも……。成さんのほうこそ素敵ですよ。周囲からも注目されるくらい」
「え? そうかなあ……」

 成さんはつぶやいて、自分の服を確認し始める。

 成さんって、自分の容姿が特別目立つって意識ないのかな。これだけ人で溢れかえっている中でもひと際目を引くのに。

 すると、彼がなにかに気づいた様子で私を見た。
 私が首を傾げると、彼は「ふっ」と柔和な表情を浮かべる。

「今日の服、ちょっと似てますね」

 言われてすぐに私も自分のコーディネートを確認する。

 私も黒のスキニーに白のボートネックシャツ。
 羽織っているデニム生地のシャツだけが違っていて、ほかは色や形が似ている。

 指摘されてたちまち恥ずかしくなる。

「ほ、本当ですね。なんかすみません」
「なんで謝るんですか? デートっぽくていいです」

 彼は白い歯を覗かせて、さらっと言って退けた。

 もはやここまでになれば、照れているこちらのほうが可笑しいのかなと思ってしまう。
 私は咳払いをして気持ちを切り替え、冷静になってから話しかけた。

「成さん、早く着いていたんですか? それならカフェに入っていたらよかったのに」
「いえ。さっき着いたばかりだったので。お気になさらず。どうしましょうか。とりあえずなにか飲みますか? それとも移動しますか?」

 どうしよう。会っていきなり本題を切り出すのも失礼だろうか……。

 大体、今破談を申し入れる空気ではないのは確かだし……。もう少し様子を見つつ、頃合いを見計らうのがいいかも。
< 20 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop