身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 約二時間後。私たちは別荘で食事を済ませていた。

 調理環境は整っているとはいえ、使い勝手は違うし時間もかけられないから、簡単なラインナップにさせてもらった。

 水に浸しておいて湯で時間を削減する方法で、フライパンひとつでナポリタンを作った。
 付け合わせは、火を使わずただカットすればいいだけのバーニャカウダー。それと、スープはインスタントにパスタで余った具材を入れただけ。

 本来食事をするはずだったフレンチには到底及ばないものの、薪ストーブを間近で眺めながら食事する時間は至福の時だった。

 片付けを終えた私は、ソファに座ってぼんやりとストーブの火を見つめる。
 ゆらゆら揺れる炎と時折薪が立てる音に非日常を感じ、その暖かさにリラックスしていた。

 成さんが二階から降りてくる。

「梓さん、二階のお風呂にお湯をはってるから」
「あ、ありがとうございます」
「浴槽大きくてお湯たまるのも時間かかりそうだし、ちょっとだけ出かけない? 梓さんと行きたいところがあって」
「え? 今ですか?」
「うん。夜じゃないと意味がないんだ。わりと近くだから」

 成さんに誘われ、私はトレンチコートを羽織って車に乗った。

 十分弱走って林道に入り、車は止まる。
 フロントガラスの向こうには三角屋根の木造の建物。

「着いたよ」

 成さんはそう言って車を降りる。
 私も続いてドアを開けた瞬間、ひやりとした冷たい空気に肩を窄めた。
 やっぱり軽井沢は東京と比べて気温が低い。

 車を降りる建物に続く道があり、道沿いには雰囲気のあるランタンが等間隔で設置されていた。
 道の入り口に木の看板が立っている。
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