身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「理由なんて、初めから梓に何度も伝えているだろう。俺はてっきり、理解して三か月付き合うのを承諾してくれていたと思ってた」
「え……」

 悲しそうな表情を浮かべた成さんに、胸がきゅっと鳴る。
 彼は片膝を折り、私と同じ高さの視線でさらに言葉を紡いだ。

「個と個の付き合いをしてみようって言った。そこにビジネスはない。君に俺を好きになってもらう――理由はそれだけ。ここまで言っても、まだわからない?」

 成さんの熱い眼差しに鼓動が早くなっていく。

 さっきまで怒りを滲ませて見下ろしていた彼が、切願するような瞳で私を見上げている。
 今、伝えてくれた言葉もだけど、なによりも成さんのその両眼が私の心を動かす。

 成さんは私を見て、おもむろに目尻を下げた。

「その顔は……ようやく俺の気持ちが届いたみたいだね」

 そう言って、そっと手を重ねる。

「でっ、でもやっぱり、私のどこがって……」
「なんにでも一生懸命で真面目なとこ。気が優しく人がよすぎるところも愛らしいよ。健康的な肌の色も、大きな目も、小さな耳も好きだ」

 私が零した疑問に、彼は私の耳に触れ、甘く妖艶に答えた。

 低く艶やかな声。しなやかな指先。

 胸が高鳴り、心臓は信じられないほど大きく速く脈を打つ。ドキドキしすぎて涙が浮かぶ。
 成さんは、硬直する私の唇に指を置いた。

「ここは最近知った、俺の好きなとこ――」

 言い終えるかどうかで、あっという間に塞がれる。
 食べられてしまう感覚に溺れ、彼の熱い舌に酔わされる。

「ん、ふぅ……んん」

 繰り返される唇の愛撫に、彼の腕に添えた手の力が抜け落ちていく。

 自分の身体さえ支えきれないほど蕩けさせられて、私はソファの上に倒れ込んだ。
 私を真上から見下ろす成さんは、自分の濡れた唇を親指で拭う。その様がまたセクシーだった。
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