身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「彼女との縁談はなくなった。代わりに梓がここにいる。違う?」

 成さんが放った『代わりに』のワードが胸に刺さった。

 やっぱり、私はあくまで代わりなのだと突きつけられて、ショックを受ける。
 私はグッと手を握り締め、乾いた唇をゆっくり開く。

「……違いません。だけど、昨日友恵ちゃんと会ったんですよね?」

 友恵ちゃんから会いに行くとは考えにくい。
 つまり、成さんからコンタクトを取ったのだと考えたら……それは、彼の正直な気持ちなのだと思ったから。

「会ったよ。ただ、あれは彼女が一方的に俺を尋ねてきただけで、俺から接触したわけじゃない」

 友恵ちゃんから……!?

 成さんの話を聞いた瞬間、思わず顔を上げた。
 自分の見解が大外れして動揺を隠せない。

 混乱していると、成さんが怜悧な目で言った。

「もしかして、今になって俺が彼女との縁談を仕切り直しさせようとしてるって思ったの?」

 成さんに問い質され、つまりはそういうことだったと改めて認める。

「だって……ほかに……会う理由が見つかりません」
「さっきも言ったけど、会いにきたのは向こうで俺じゃない」

 成さんは言下に否定し、私をじっと見つめる。

「彼女は、お見合いに応じられなかったのは自分の責任だから、梓を巻き込むのは困るって」

 えっ。私のため……?

 友恵ちゃんが成さんに会いに行った理由を聞き、茫然とする。

 そういえば、最後の電話は途中で成さんが帰ってきたのもあって、詳細に説明はできなかった。

「梓、彼女にビジネスで俺と一緒に暮らしてるって話したんだって?」
「えっ。あ、期間とか……三か月と決まっていますし、それ以外の理由が見当たらなかったんです」

 言われれば、そんなふうに説明していたかもしれない。

 私が答えた後、成さんは急に項垂れて、長い息を吐いた。
 ハラハラとして彼の動向を窺っていたら、ふいに真剣な双眸を向けられた。
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