8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 そして二ヵ月の間、オスニエルは公務の立てこんだ日以外は、毎日顔を見せに来た。
 令嬢たちとのお茶会も定期的に行われ、出来上がった花飾りを見せ合う趣味の会合のようになっている。
 孤児院の事業も順調に動きだし、秋の気配が漂い、氷レモネードの季節も終わっていく。

 そんなある日、いつもの護衛とは違う男がフィオナの宮の前にいるのを見つけた。
 栗色の髪に琥珀の瞳。見覚えのあるその男は、一兵卒のような格好をしていた。

「よう」

 側妃に向けたとは思えない軽々しい挨拶に顔をまじまじと見て、フィオナは心底驚いた。

「トラヴィス?」

「久しぶりだな」

 驚きのまま、フィオナは庭に彼を招き入れる。ここならば、あまり人に見られることもない。

「どうしてここに? 行方不明だって聞いて心配していたのよ」

「オズボーン国にわたって、兵士に志願したんだ。しばらくは外周勤務だったが、ようやく城内警備に回れた。まあ俺は優秀だからな」

「まあ」

 たしかに、彼の剣の腕はすごかった。多勢にはかなわなくとも、一対一で対峙すれば、ほとんどの兵士に負けないだろう。

 だが、自分たちを襲ったオズボーンの騎士団に入るなど何を考えているのだろう。

「……とにかく、無事でよかったわ」

「フィオナ」

 彼は神妙な顔でフィオナの肩を掴んだ。

「迎えに来たんだ、俺と逃げよう」

「は?」

「殺害を企てるような国に、お前をやれるか」

 それは、輿入れのときのことを言っているのだろう。フィオナもたしかにそれには腹を立てていたが、今となっては終わったことだ。

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