8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 トラヴィスが持ち場に戻ると、先輩兵士が不満げな顔で待っていた。

「遅いぞ! 小用になに時間をかけてるんだ」

「すみません。腹が痛くなって」

 悪びれず謝り、トラヴィスは城門警備に戻る。

 フィオナの乗った馬車が襲われたあの日。トラヴィスは襲撃者の統率の取れた動きが気になっていた。そして、ブライト王国一と言われた実力のトラヴィスをやり込める実力を見ても、ただの盗賊などではない。

 腕に深手を負った彼は、森の中に隠れ、盗賊団が引いていくのを待った。

『大体やったか?』

『ああ。大したことないものだな。ブライト王国の警備も』

『これなら、婚儀など結ばなくても、この国を得るのはたやすいのではないか。殿下の言う通りだったな』

 この会話を聞いて、トラヴィスは襲撃者がオズボーン王国のものだと気づいたのだ。

 そこから、トラヴィスはすぐに行動に移した。
 まずはオズボーン王国に向かい、出自を詐称して傭兵として志願した。

 同じ兵たちと親しくなれば情報も入ってくる。トラヴィスは、フィオナが無事、オズボーンの騎士団に保護され、王都で婚儀を済ませたと知り、とりあえずは生きていると胸を撫で下ろした。

 その後、トラヴィスは、兵士としてオズボーンの騎士団に入団することを決めたのだ。
 幸い実力はある。入団試験を突破するのはたやすかった。フィオナと連絡の取れる立場を手に入れるまで、彼は努力を惜しまなかった。
 そして、ようやく城内の警備に入り込めたのに。

「……冗談だろ? ここに残るとか」

 ギリっと奥歯を噛みしめる。

 その時、女性の声が、トラヴィスを捕らえた。

「そこの兵士、ちょっとこちらにいらっしゃい」

「……どなたですか?」

 金髪の美しい令嬢だ。釣り目のせいか、やや気が強そうに見える。

「私はジェマ・リプトン。リプトン侯爵家の娘よ」

「これは、失礼いたしました。ジェマ様」

 侯爵令嬢が、なぜたかが門番風情に話しかけるのかと思いながら、トラヴィスはゆっくり頭を下げる。

「話があるのよ、そこの警備、少し抜けられないの?」

 トラヴィスはもうひとりの門番と顔を見合わせた。仕事を優先すべきだが、侯爵令嬢は命令口調で、断ってはいけないような空気もある。

「……いいですか」

「ああ。行ってこい」

 許可をもらい、トラヴィスは彼女の後について行った。
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